空の境界 奈須きのこ

　映画化で話題になっていた半年前に文庫版を買いました。
　半年前の話です。
　
　電車の中での時間つぶしになればと思って買ったんですが、なんか読むたびにストレスが溜まっていく気がしてこれは朝から精神に悪影響だなと…それで電車内で読むのは止めました。
　それ以降放置。

　奈須きのこという作家は名前だけは知っていました。その文体がなかなかアレなことも知識としては知っていました。
　けれど、まあ、どれくらいのものかってのは実際に読んでみなければわからないものです。

　本当に酷い。ヒドイ。

　高校生が書いたケータイ小説かって感じですよ。

　これが本当にケータイ小説とかオンライン小説とか同人小説とかならまだいんです。
　これがきちんと本の体裁を成していて、レーベル的にもラノベじゃなく一般書籍ってのがストレス感じるひとつの原因なんです（中身は完璧にラノベだけどね）
　形にそこまでこだわるのもどうかと思うんですが、それでもなんか許せない。

　読むほうは外見に見合う中身を期待して読むわけです。
　本という媒体で読むものは最低限「読書」に値するだけの価値がなきゃならない。
　空の境界という小説は「本」という外見に中身が追いついていない。
　分不相応なのだ。

　これをオンライン小説して読んでいたらなんの問題もなく傑作だ、といえたような気がする。

　でも残念ながらこれは講談社が出版している書籍なわけで…。

　最初に読んだときは余りに「本」にそぐわない中身に戸惑ってしまってひたすらイラつくだけだった。
　
　我慢すれば読めないこともない。でも我慢して読む本なんて結局最後まで読んだってクソも面白くないだろう。

　というのが半年前の私の感想でした。

　そんなわけで私の積読本に新たな一冊が加わった。


　でも考えてみれば分不相応な駄作なんて世の中には腐るほどある。なのに奈須本にここまで反発したのはどうして何故なのか？


　私は最初の一文を読んだ時点で「これは受け入れられない」と無意識に決め付けてしまった。否定から入ったから嫌な部分がやたら目に付く。
　変な造語やら、妙な振り仮名やらのオンパレードだし、人物造形も中二病丸だし、台詞の説明くささは破滅的。
　これらはすべて受け入れられないものとして認識された。
　だから目に付くたびに苛立たしい。
　読者として否定から入ってしまったのでは楽しめなくて当然なのだ。


　そういうわけで半年放って置かれた本だったが、昨日やっと最後まで読むことができた。
　そもそも手に取ることすらしなかった本をなんでまた読む気になったかというと、映画の主題歌をニコニコ動画で聞いてしまったからだ。
　この歌がそのまま空の境界の世界観なんだとしたらもしかしたらすごい面白いものなんじゃないか？と思ったから。
　映画の評判もなかなかだし、これはやっぱり原作はもう一度きちんと読んだほうがいいかな～と思って。時間もあったしとりあえず手元にあった上巻に再挑戦。

　前に読んだときみたいに文体やその他を気にしていたら先に進めないのはわかっていたので再読にあたりいろいろ妥協をすることにした。

　まず、文体は一切無視。無視。
　もはやこれは小説ではなくシナリオだと思って読むことにした。文章ではなくストーリーだけをひたすら追う。
　そう思って読んでみると意外なことにわりとすんなり読めた。

　なんというか最初に読んだときはこの小説に求めたハードルが高すぎたのだと思う。
「こういうもの」だと思って読んでしまえば苦痛はそれほど感じない。
　気にすれば気にするほど嫌な部分は浮き彫りになるものだ。それほど意識しなければ目に付くこともない。

　そもそも普段からケータイ小説やらオンライン小説やらを読み漁っている自分には最初から受け入れられない類のものではなかったのだ。
　でも「本」という形にこだわってしまったから否定してしまった。
　その形に対するこだわりを取っ払ってしまえば全然読めるものだったというわけ。

　つまり読み方と認識の問題ね。　
　
　考えようによってはあの文体も物語の世界観をあらわすのに一役買っているといえなくもない。というか作者はそういうつもりでわざとあんな文体で書いているんだろうし、あれも含めてあの世界観なのだと思う。

　そう思えばあの文章にイラつく回数が若干減った。

　そして、なんか、面白いんじゃないかと思い始めた。
　文章さえ気にしなければ面白いんだ、これが。

　最後には独特の台詞回しも「なんかかっこよくないか」と思うようになった。自分どんだけ～って感じだ。ハハハ。


　というわけで前置きはコレくらいにして。

　後日、各章ごとに感想を書いていこうと思います。